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四行詩 - 霧の十六夜 - うつろい Home Page 霧の十六夜 艶姿 舞い散る枯葉に 隠した泪
刃を濡らす 血潮の香り 今宵は一人と 数えけり

第壱斬 序章 - ツクヨミ ノ キリ

 瓦礫に埋もれた街。眠らない街とも言われていた筈だが、その面影は朽ちた巨大な建造物に残るのみ。そこは、かつて『東京』と呼ばれていたエリアであった。

 いつしか東京は華やかなネオンから、恐怖で埋め尽くされた街に変わっていた。法令には無かった戒厳令を急きょ規定し、東京全域を封鎖。しかし、長年住み慣れた生家に残した想い出の品を取りに戻る者達、ここぞとばかりに現金や貴重品を漁る者達の訪れは途切れることがなく、そしてその大半の者達は戻らぬままであった。。。


灯りのない暗闇の摩天楼
逃げ惑う足音 行き止まりの路地
迫り来る異形の影 追い詰められた元住人


ひとすじの閃光


<ズバッ!!>

瞬歩で間合いを詰めた何者かが、追跡者の片腕を切り落とした。怒り狂った追跡者の反撃を受け流しながら隙を見て再び間合いを詰め、今度は頭を跳ね飛ばす。ズシンという音を立てて倒れる追跡者、元住人は何が起こっているのかさえ理解できなかった。ただ、いつの間にか辺りを埋め尽くしていた霧が少しずつ消えてゆくにつれ、月下に映し出された何者かが日本刀を携えた少女であることだけはわかったようだ。追跡者は月を背にしていて陰しか見えていなかったが、居合切りの速さで繰り出された刀身に受けた月の光が、まるで閃光が切り裂いたかの様に見えたのであろう。


(美しい…)

 しかし同時に、異形の者にひるむことなく対峙する少女に対し、助けられたにもかかわらず恐怖を感じずには居られなかった。



 東京から無事に生還する者も居たが、単に運が良かっただけである。異形の者に接触する前に自衛隊や警察に発見されて脱出、もちろんこっぴどく説教されていた。ただ、生還者が増えるにつれ、いつからか妙な噂がSNS等で囁かれるようになっていた。
「少女に助けられた」
「異形の者を少女が倒した」
「異形の者と戦ってるから逆に怖いと感じた」
「いや助けてくれたのだから味方だろう」
「何故味方だと言い切れる」
「異形の者を相手に出来るのは化け物だけだろう」
助けられた者達が、ネット上で議論を始めていたのだった。異形の者を倒した『少女』について。

天使が居る vs 悪魔が居る

 相反する噂に誰もが困惑する中、いつしかその少女のことを、こう呼ぶ様になった。

『月読の霧』

血に濡れた日本刀『十六夜』を振りかざし、氷の様に冷たい瞳で月を見詰めている姿。彼女は一体何者なのか。。。



さかのぼること二年前

 新宿で友人達とショッピング、少女はごく普通の女子高生であった。大都会の喧騒、人々の笑顔、いつもの当たり前の光景。それを一気に変化させる悲鳴が、辺りに響き渡る。


「きゃぁぁぁぁぁぁっ!?」

泣き叫ぶ女
その足元に転がる誰かの頭


騒然とする人混みの中心には、人型ではあるがトカゲのウロコの様な皮膚に覆われた異形の姿。紅い眼で何かを探しているかの様に周囲を見渡している。駆け付けた警官も、着ぐるみや衣装ではない姿を目の当たりに唖然としていたが、さすがに胴と頭が離れた遺体を見て我に返った。

「動くなっ! おとなしくしろっ!!」

銃を構えた警官に、異形の者がゆっくりと近づく。

「動くなっと言っただろっ!」

大きく腕を振りかざしながら警官に向かって走り出した異形の者に、警官が発砲。異形の者の動きが止まった。しかし痛がる様子もなく、再び走り出して警官に体当たり。 遠巻きに見ていた者達は「これ以上は命に係わると」感じて逃げ出したが、いくら大都会とはいえスペースが無限にある訳ではない上にパニック状態、あちこちで将棋倒し事故が発生。

ただ、異形の者は逃げる者には興味が無いといった態度で再び周囲を見渡しているうち、逃げ遅れている少女に気付いて凝視した。見られていると感じた少女は少しでも離れようと逃げるのだが、走る方向をどう変えても異形の者は着実に少女に向かう。段差につまづき転倒した少女に、異形の者が襲い掛かる。

<ドガッ!!!>

一緒に来ていた剣道部(有段者)の友人が、観光客が落としたのであろう木刀で脳天を叩きつけた。

「にっ…逃げるぞっ!」

ひるんでいる間に走り去る二人だが、追いかける異形の者に肩をつかまれた友人が路面に打ち付けられてしまう。

「いやぁぁぁぁっ」

叫ぶ少女に友人は微笑んだ。

「お前は生きるんだ」

攻撃対象が少女から自分に変わったのだと悟った友人は、骨を砕かれているらしく片腕で木刀を持って対峙。その直後、警官が少女の腕を掴みその場から遠ざけた。



 何が起こったのかわからないまま、少女は彼の最後の笑顔と言葉を思い出していた。

(もう二度と会えない…)

認めたくない感情とは裏腹に、きっとそうなんだろうと認識している理性。そんな自分を責めたて、少女の心は次第に闇に包まれていった。。。


Copyright 氷の翡翠 2013-2020


【解説】
 日本刀を持った女子高生が戦う、中二病まっしぐらの小説です。某所にて冗談で書いた単発ショートストーリーだったのですが。。。まぁ、詳しいことは、別途『よもやま話』か番外編にて話すことにします。
 原本の第一話は、この第壱斬に続いて『さかのぼること2年前』のエピソードまで含まれてたのですが、長々書いてもどうせ誰も読んでくれそうにないので、ボリューム軽めにしました。短かったら、とりあえず読んでもらえるかもしれないかなと思ってね。ではでは、気が向きましたら暇つぶしに読んでみてくださいね。…全然解説になっとらんな(汗)。と書いてアップしたのが2020年11月18日だったのですが、2年前のエピソードのサブタイトルが思いつかず、2020年11月21日に加筆して原本と同じボリュームにしてしまいました。

【語句】
●十六夜
「イザヨイ」と読みます。十五夜の翌日の月のこと。本作では、少女が持つ日本刀の名前です。
 
●月読
「ツクヨミ」と読みます。古事記に出てくる神「月読命(ツクヨミノミコト)」から拝借しました。著作権も商標も関係ないから気が楽ですね(笑)。「月夜見命」なんて綺麗な表記もあるみたいです。




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